2026-05-08

やり方が違う

EU や英国、その他いくつかの国が、オンラインサービスにおける 年齢認証のルールを強化しつつあり、VPN の利用にも次の標的として 圧力をかけ始めている。建前は子どもの保護だ。子どもがネットの 最悪な部分にアクセスすべきではない、それを止めるのはプラット フォーム側の責任だ、という話になっている。それらしく聞こえる が、政策が実際に何をやっているのかを見ると、印象は変わる。

年齢制限を社会全体で分担して守るという発想自体は古くからある。 バーテンダーは身分証を確認するし、映画館は未成年を断るし、商店 も年齢を聞く。問題は「他人が年齢制限を執行することがあるかどう か」ではない。それは昔からある。問題は「オンラインで今やろうと しているこのやり方が、それに見合うコストかどうか」だ。

バーで店員が運転免許証をちらっと確認しても、データベースには 何も残らない。オンラインの年齢認証は、たいていの場合、何かが 残る。たとえ「第三者が処理するだけ」「短時間しか保存しない」と 言われても、コストは恒久的だ。何か読みたい・観たい大人は、毎回 身分情報を一連のシステムに入力するか、その時々で流行している 回避策のほうへ押しやられる。そのコストは、誰もが毎日、ずっと 払い続けることになる——しかも、半日もあれば余裕で迂回してくる 相手を抑止するために。

抑止できないのは経験的にもわかる。私が13歳の頃、クラスには必ず 誰かエロ本を持ち込んでくる人間がいて、学校中で回覧されていた。 何かを見たがる子どもは必ず手段を見つける。世代ごとに変わるのは ルートだけだ。いまの13歳なら、無料の VPN アプリを30秒もあれば 入れて、元の場所に戻れる。法律が想定している対象こそが、いちばん 制約を受けない。実際に制約されるのは、技術に詳しくない大人—— もともとこの法律が向けられていたわけでもない層だ。

本当に効くのは、地味なほうだ。端末側の制限機能をちゃんと整える こと。学校でまともなデジタルリテラシー教育を行うこと。子どもの オンライン生活に向き合えない、あるいは向き合っていない親に対する 支援を用意すること。制限は手元で設定する。破られることは最初 から織り込む。破ったら叱る。そして「破られた」という事実その ものを、教育の一部として扱う。檻を強化する根拠としては扱わない。 そういう会話を親としてもらえている子は概ね大丈夫だ。親がそう していない子の問題を、回線の向こう側に置かれた政府公認 ID チェックで解決することはできない。

どの大臣もそちらを選ばない理由は単純だ。高くつくし、遅いし、目 に見えにくい。子育て支援やデジタルリテラシー教育に予算を入れて も、成果が出るのは、よくて20年後だ。年齢認証を義務化し、VPN に宣戦布告すれば、来週には記者会見ができる。どの国も毎回同じ 選び方をする。そしてそのツケは、何も悪いことをしていない大人 に回ってくる。

子どもを守るというのは、まっとうな目的だ。ただ、これはその やり方ではない。